100歳まで生きたら
お金は足りるのか

私自身のことで言うと、最初にがんだとわかったときには、「わっ、なんと運が悪い。私の死期は2、3年後か」と思いました。1人でこの世から去っていく「死」は、永遠の孤独です。究極の孤独と言ってもいいでしょう。誰も「じゃあ、ご一緒しましょうか」などと言ってはくれません。ですから正直、とても寂しいし、怖くないと言えば嘘になります。

ところが、死の恐怖に打ち震えていたのはほんの数日。次に私を襲ったのは、「きゃっ、生きながらえたらどうしよう~」という怖さでした。振り返ると80代は、風のごとく過ぎ去りました。これからの90代も風のごとく過ぎ去り、100歳まで生きていたとしたら、我が貯金通帳はどうなっているのか。

(イラスト=マツモトヨーコ)

その不安は、術後の検診でさらに高まりました。お医者さま曰く、「がんもおとなしくなっているので、ヒグチさん、おそらく当分死なないでしょう」。今後、医療費はますますかかるだろうし、いずれ仕事もできなくなる。そうなったとき、はたして生活費が足りるだろうかと、ぞ~っとしたのです。

私は戦争中に育ち、父親は質素な貧乏学者だったこともあり、贅沢が身に合いません。節約して、老後の生活設計もそれなりに堅実にしてきたつもりです。最初の結婚では、いったんは《家庭に入る》形を取りましたが、仕事をし直すのが将来のためになると思い再就職しました。その後もしばらく会社勤めを続けたので、多少は厚生年金がありますが、就労年数も少ないですし、定年まで勤めあげた同年の男性同様の年金はいただけません。それでも働いてきたぶんだけ恵まれていると思います。