SNS時代を生きる少女のほろ苦い青春
ケイラ、13歳。日々を前向きに過ごすためのアドバイス動画を、日課のようにYouTubeにアップする。だが、実のところは、中学生活最後の1週間を迎えて、「学年で最も無口な子」に選ばれるほど内気な女の子。高校生になる前にそういう自分を変えようとするが、ケイラが理想とする「クールな私」になるのは簡単ではない。『エイス・グレード』はそんな悩める等身大の13歳を描く。
ケイラはシングルファザーの父親と2人で暮らしている。家にこもりがちな娘を気遣う父。父の気持ちはわかるものの、そのお節介をウザったく思うケイラ。親子仲は決して悪くないが、父と娘のコミュニケーションはうまくいかない。クラスの輪に加わろうとして人気者の誕生日会に参加しても、声をかけてくる子は少なく、誕生日プレゼントには興味を持たれず、浮いてしまう。工夫を凝らしてYouTubeに動画をアップするが、彼女のチャンネルへのアクセスはゼロ。平穏な日々だが、ケイラにとっては悩みが尽きないのだ。
エイス・グレード(8年生)は日本で言えば中学2年生にあたり、主人公は中学から高校へと進む夏を迎えている。ケイラ役のエルシー・フィッシャーは映画の撮影時には14歳だった。ちょっとニキビが目立つ顔、ぽっちゃりした幼児体形で、猫背気味の姿勢は自信なさげだ。彼女の愛らしい姿、迷いながら成長してゆくさまは、演技を超えて主人公そのもの。ケイラは、食事の際にも、寝る時にもスマホを手放さない。ニキビをフィルターでぼかした自撮りで、気の利いたコメントを考えて動画をアップし、SNSで「いいね!」をもらおうと必死だ。まさに、今どきのティーンエイジャーなのである。
しかし、自分を変えようと試みても失敗ばかり。思い切って声をかけたクラスメイトに、冷たく対応されるのはつらい。いじめられてはいないが、関心を持たれてもいない。自分をそういう存在だと認めるのは難しいことだ。理想と現実のギャップを埋めようともがく不器用な少女は、誰もが通ってきた思春期を思い起こさせてほろ苦い。それでも、ケイラは前を向いている。背伸びすることをやめ、自分らしくあることとは、と自問する彼女に多くの人が共感できるはずだ。
監督・脚本のボー・バーナムは29歳。彼は2006年にユーチューバーとしてキャリアをスタートさせ、コメディアン、ミュージシャン、俳優を経て、本作が監督1作目だ。SNSやYouTubeの功罪を知っているからこそ、YouTubeに自分のチャンネルを持つ中学生の成長を愛情こめて優しく見つめる。時代を切り取りつつ、いつの世も変わらない思春期を描く作品だ。
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世界でいちばんクールな私へ
監督・脚本/ボー・バーナム
出演/エルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、
エミリー・ロビンソン、ジェイク・ライアンほか
上映時間/1時間33分
アメリカ映画
■9月20日よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほかにて全国順次公開
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出演:ブノワ・ポールヴールドほか
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ムッソリーニが現代によみがえったら
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出演:マッシモ・ポポリツィオほか