自分を追い込み疲れ果てて

ところで、未来の「夜鳴き」のことで、トリマーのキミコさんに相談しているとき、彼女が私にこんな話をしてくれた。

キミコさんは、柴犬の老犬を飼っていたお客さんから、ある日、こんな相談を受けたという。

「犬が認知症で夜鳴きがひどく、ずっと寝ていない……。疲れて、どうしていいのかわからない……どうしたらいいでしょう……私も年を取っているから、安楽死をさせようと思っているんです……」

そのお客さんは高齢で、ご主人に先立たれてひとり暮らし。とても犬をかわいがっていて、昔からキミコさんには愛犬のトリミングで世話になっていた。

キミコさんは、ご主人亡き後、彼女が認知症の老犬の世話をひとりで担い、まともな判断ができなくなったのだろうと思った。

犬の世話は、主にご主人がしていたというからなおさらだ。見たところ、老犬の余命はそれほど長くない。もう少し頑張れば看取れるだろうというのが、キミコさんの見立てだった。

「ここまでお世話を頑張ったんだから、最後までもう少し、一緒にいてあげましょう」

キミコさんは、話を聞いてそう励ましたが、彼女は「うん」とは言わず、黙って首を横に振って泣きだした。

認知症の愛犬の介護をひとりで担い、苦しみ、どうしていいかわからず、自分を追い込みすぎて疲れ果てていたのだ。

『うちの犬(コ)が認知症になりまして』(著:今西乃子/青春出版社)