結婚式後、夫の社宅に引っ越したが…

その後それぞれ社会に出て、私は26歳になっていた。仲のよかった大学時代の友人3人はみな結婚し、私は独身。零細企業の営業職でがんばったが、働き詰めでモチベーションが保てず、私も結婚したいという願望が強くなっていた。今思えば結婚したいというより、仕事から逃れたかった、というのが本音だったかもしれない。

そんなとき、彼とたまに電話したり、彼が東京の実家に帰ってきた際には2人で会ったりするようになった。純粋に先輩としか思っていなかったが、だんだん会うことが楽しくなり、私が大阪まで会いに行くように。

いわゆる遠距離恋愛だが、学生時代から知っていたからある程度人柄をわかっているつもりだった。しかし、それが大きな勘違いだったことがのちにわかる──。

結局、彼からプロポーズされ、先述の結納を交わし、東京のホテルで結婚式を挙げた。披露宴はサークル仲間や仕事関係者ら150人もの招待客で盛況。沖縄への新婚旅行から帰ってくると、いよいよ大阪での新生活が始まった。新居は彼の会社の社宅。知り合いもいない土地で、頼れるのは夫だけ。楽しさより不安のほうが勝った。

私が運んだ荷物も片づけきらないうちに、彼は出勤。勤務先の工場は、自転車で5分の距離だ。3DKの古い社宅の部屋に残された私は、なんだかとんでもなく遠いところに来てしまったような気になった。

買い物に行こうにも、どこにどんな店があるのかわからない。結婚の支度から引っ越しまで彼に頼れず、彼のお母さんと準備することが多かった私はどっと疲れが出て、新しい土地を探険してみようという気はつゆほども起きなかった。