(イラスト:大野博美)

裁判所が発表した令和2年度の司法統計によると、離婚調停を申し立てた女性側の動機で最も多かった理由が「性格が合わない」。続けて、「生活費を渡さない」「精神的に虐待する」の順に多かった。金銭的な問題以上に、内面的な問題で悩む女性が多い中、山岸美也子さん(仮名・長野県・主婦・64歳)も、モラハラ夫に悩まされたそう。大学のサークルの先輩と結婚したが、料理や掃除の仕方の一つひとつをチェックされ、精神的に追い詰められて……。

理由も告げず、結納に来なかった彼

モラルハラスメント――。私が前の夫と結婚した1986年頃、この言葉はまだなかった。しかし、彼が4年間の結婚生活の間にした行為の数々は、まさに「モラハラ」だったと今になって思う。

予兆は、結納のときにすでにあった。当時、私は神奈川県に住み、東京に実家がある彼は仕事の関係で大阪の独身寮に住んでいたが、静岡にある私の実家で結納が行われることに。朝から雪のちらつくその日、彼の両親は車で来てくれたのだが、肝心の彼が来なかったのだ。

はっきりした理由はわからないものの、「当日は行けないかもしれない」とは聞かされていた。「来てくれるのではないか」と期待していたのだが、結局主役の一人が不在のまま、私が両家の親に気を使いながら結納は滞りなく進んだ。ダイヤの婚約指輪は、彼のお母さんと私で買いに行ったもの。その日、彼からは電話もなかった。

後日、当日は何をしていたのかと聞くと、彼は悪びれもせずにこう言った。「寮の部屋でアンニュイな気分に浸っていた」。

彼とは大学時代に加入していたサークルで知り合った。彼は都内の国立大学の3年生で、私は私立大学から彼のいるサークルに通っていた。背が高くすらっとした体形の彼は時折吐く毒舌が面白かったが、斜に構えたような癖の強い性格で、特別な感情は抱かなかった。