料理の味つけが試練に。「愚か者」とののしられて

私の体に異変が起きたのは、新生活が始まって1ヵ月ほどたった頃。夜、眠れない。朝4時頃に目が覚めると、もんもんとしたまま時間が過ぎ、過去の嫌な思い出ばかりが甦る。彼の起きる6時より前には起きて家事を始めねばと思うものの、体が動かない。なんとか布団から出て朝食を準備するのだが、それが最初の試練だった。

私は知らなかったのだが、彼はかなりの料理上手だった。しかもこだわりが強い。のちに言っていた言葉が、「会社を辞めたら小料理屋でも開こうかな」。私が野菜を切ると、「小さすぎる、大きすぎる」と切り方にダメ出しされた。

味つけをすれば、「味がぼやけている」「どんな味つけをしたらこんな味になるのか」。食器の選び方、盛りつけの仕方、料理を出すタイミング、すべてに注文がつき、そのたびに馬鹿にした目で見てくる。

たしかに私は料理上手と胸を張れるほどではないが、大学時代から姉と自炊生活をしていた。姉の結婚後、3年間は一人暮らしをしていたので、誰かに指図されなければ何もできないわけではない。

彼のチェックは、料理だけではない。掃除をすれば、「掃除機の吸い込み口を畳へ当てる角度が悪い」。湯を沸かした浴槽にほんのわずかな水泡を見つけて、「浴槽の内側の壁に泡がつくのはヨゴレを落とし切れていないからだ」。洗濯すると、タオルの干し方が違うと干し直しをさせられる。

また、洗濯物を干しておくのは、午後4時まで、布団は2時までと決められた。あるとき、彼が職場に着ていく厚手の作業服の乾きが悪いため、夕方まで干したことがあった。職場が近いため5時過ぎに帰宅した彼は、自分の作業着が干しっぱなしになっているのを見つけると、何も言わず、いきなり私をビンタした。そしてこう言った。

「(作業服を干しっぱなしにしているのは)俺を愛していないからだ」