(イラスト:大野博美)
裁判所が発表した令和2年度の司法統計によると、離婚調停を申し立てた女性側の動機で最も多かった理由が「性格が合わない」。続けて、「生活費を渡さない」「精神的に虐待する」の順に多かった。金銭的な問題以上に、内面的な問題で悩む女性が多い中、山岸美也子さん(仮名・長野県・主婦・64歳)も、モラハラ夫に悩まされたそう。大学のサークルの先輩と結婚したが、料理や掃除の仕方の一つひとつをチェックされ、精神的に追い詰められて……。

前編よりつづく

具合が悪くなると、急にやさしくなる

かつて実家には、祖父母、両親、姉と私が暮らしていた。両親ともに会社勤めをしていたので、家事はもちろん、親戚づきあい、お金の管理などはすべて祖母が仕切っていた。頭がよく気の強い祖母とおとなしい祖父は仲が悪かった。ちょっとした言い争いをして、祖母が祖父にものを投げつけることも。

祖母のことは大好きだし尊敬もしていたが、祖父への態度だけは醜悪だと感じていた。そして自分は結婚したら夫に従順な妻になる、とひそかに思っていたものだ。しかし、そんな幼き日に立てた誓いが裏目に出た。なにを言われても言い返したり反論したりしない私に対して、夫は自分が正しいと思いこんだようだ。

時には言葉だけでなく、肉体への攻撃をされることもあった。しかも顔を殴ったりはせず、太股の内側をつねるのだ。なぜならアザができても太股なら他人から見えないだろう、と言うのだからまともではない。

私はたびたびうつ状態を繰り返すようになった。始末の悪いことに、私の具合が悪くなると彼は急にやさしくなり、「ごめんね」と言う。こんなやさしい一面もあるのだから、私が頑張れば正常な暮らしができるはず、と希望を持つこともあったが、しばらくすると元の木阿弥。私が回復すると、「馬鹿」「愚か者」が始まった。

私の体調が万全でないことは、私の親や親戚にも、盆暮れの集まりなどで知られてしまった。ただ具体的なことや暴力行為は、身内には一切話さなかった。だから両親は、私の体調が回復しないのは私の体質のせいで、むしろ家事も一人前にこなせない娘で申し訳ない、と思っていたようだった。

しかし、結婚生活も3年になろうという頃、事件は起きた。私は朝から体調がすぐれず、臥せっていた。出勤する夫の見送りだけはしなければと、パジャマ姿のまま大きく肩で息をしながらやっとのことで玄関に向かうと、靴を履きながら夫がこう言った。

「ホントに病気なの?」