作家の黒井千次さんと評論家の樋口恵子さんは、同じ小学校の同窓生。近年はそれぞれ「老いの日常」を綴ったエッセイが話題だ。久々の対面で、幼少期の思い出から老いへの対処まで会話が弾んで(構成=篠藤ゆり 撮影=村山玄子)
人生100年時代、70代はまだ「未熟高齢者」
樋口 今日ぜひうかがいたいのは、人生100年時代の生き方です。黒井さんは40歳でサラリーマンから作家という新たな人生を歩まれた。寿命が延びているので、今の人だと50過ぎくらいの感覚でしょうか。長寿時代、そういう生き方に興味津々の方は多いと思います。
黒井 僕の場合、運がいいことに、会社を辞めた時期に日本経済が上向きだった。退社前は宣伝部にいたので、広告代理店にも知り合いが多く、テレビのレポーターなどメディアの仕事とも出合えて。だんだん仕事のバランスが変わり、「書くこと」を中心とした生活になりました。
樋口 企業に勤務しながら書く仕事を始めた点は、私も共通します。そして気づいたら、2人とも「老い」について書くお年頃になっていた。(笑)
黒井 自分自身の変化に戸惑うことも増え、老いというものがだんだん無視できなくなる。そこで高齢男性が登場する短篇小説を何作か書いたところ、『読売新聞』の担当者から「あなたが小説で書く〈おじいさん〉は、我々の持っているイメージとは違う。世の中の老人のあり方が以前とは変わってきているのだとしたら、そういうものをエッセイで書いてみないか」と提案された。
そんなわけで18年前に連載を始めましたが、当時は70代前半でしたから、「未熟高齢者」などと自称していました。
樋口 さすが、言葉選びがお上手!