<記憶のメカニズム>

人生経験を存分に生かす

「年をとってもの覚えが悪くなった」という悩みもよく耳にしますが、そんなことはありません。記憶力を保つコツやトレーニングを三つご紹介しましょう。

一つ目は、長期記憶を生かす方法。記憶には、覚えたことを脳の海馬という部位に一時保存する「短期記憶」と、海馬から大脳皮質(主に側頭連合野)に送られた情報を長期にわたって保存しておく「長期記憶」の2種類があります。経験値が高いほどたくさんの長期記憶が蓄積されているので、新しい情報を覚える時は、長期記憶をうまく生かして、短期記憶を作っていくといいのです。

たとえば、昔から韓流ドラマが大好きな人が韓国語を習い始めたとしましょう。初めて習う単語でも、ドラマのセリフで聞き覚えがあって「こういう意味かも?」と推測したり、「この言葉と関連がありそうだ」と意味を連想することができます。

そのため、何の知識もない人より、早く覚えることができる場合が多いのです。このように、何かを覚える時に、使える記憶を総動員できるので、年を重ねたからといって覚えられないということはありません。

二つ目は「ど忘れ」の活用です。これは、実は脳を活性化させる絶好のチャンス。ど忘れとは、脳の前頭葉が「知ってるはずなのに」とジリジリ感じつつ、脳から記憶を引き出す側頭連合野との回路がうまくつながらずに記憶が引き出せない状態。

この時すぐ人に聞いたりスマホで検索したりせず、何とか自力で「そうそう、あれだった」と答えを導き出せると非常に気持ちがいいでしょう? それは脳からドーパミンが放出されるから。こういった成功体験を積むことで、物ごとを思い出す回路を強化することができるのです。

三つ目は「回想療法」という方法。昔のことを思い出して言葉にするのも、認知症の予防に効果があると言われています。しかし話が長くて要領を得ないと、家族などに「また古くさい話ばかりして」と嫌がられてしまうこともあるでしょう。

しつこくなく、さらっと、「きのう巨人勝ったね」みたいな感じで昔話ができたら、聞く側もストレスがありません。短い言葉で印象的な思い出話をするには、話の本質をつかんでいないとできない。そういう意味でも脳の良いトレーニングになると思います。