(撮影:本社・奥西義和)
35歳で作家デビュー、9年ぶりに発表された新作『残月記』で吉川英治文学新人賞と日本SF大賞を受賞した小田雅久仁さん。それから2年ぶりの新作となる本書は、文芸誌に10年以上かけて発表してきた7つの短編を集めた会期小説集だ。読みながら頭に思い描く光景が濃密になるようにと、あえて改行を減らし、ページに文字をみっちり詰め込んだと語る小田さん。自分自身が日常に退屈しているからこそ見たい、常識からかけ離れた光景を物語にしたそうで――(構成:野本由起 撮影:本社・奥西義和)

途方もない景色を見たくて

28歳の頃、勤めていた会社が傾き始めたため、仕事を辞めて、かねて書いてみたいと思っていた小説に挑戦することにしました。その後、再就職してからも執筆を続け、デビューしたのは35歳の時です。低血糖症を患い、執筆活動が思うように進まない時期もありましたが、2021年に刊行した『残月記』で吉川英治文学新人賞と日本SF大賞をいただきました。

『残月記』は、僕にとって9年ぶりの新作。寡作と言われることに忸怩たる思いはありますが、焦ったところで病気はよくならないし、筆は遅いし、どうにもなりません。これはもうしかたがない。「これだけのものを書くには、時間がかかって当然だ」と納得してもらえるような、寡作の作家にしか書けない小説を書くしかないと腹を括りました。

おかげさまで、ふたつの賞をいただいてからは、風向きが良くなったと感じています。2年ぶりの新作となる本書は、10年以上かけて文芸誌に発表してきた7つの短篇を収めた怪奇小説集です。

発売前に収録作が漫画化されたり、韓国と台湾で翻訳版の刊行が決まったりと、想像もしていなかったことが起きています。ありがたいことですが、果たして僕の本が海外で売れるのでしょうか。(笑)