今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『言葉の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(今井むつみ・秋田喜美 著/中公新書)。評者は女優で作家の中江有里さんです。

身体感覚に近いオノマトペから、思考する

言葉は日常に溶け込んでいるせいか、なぜその言葉になったのかを実はよく知らない。本書を読みながら、子どもの頃に抱いた疑問を思い出した。

「は」という字は、単独では大した意味はないのに、「ははは」と三つ並ぶと笑っている表現になる。その不思議にハマって、文字の羅列である本に手が伸びたのだった。つまり読書が趣味になったのは、文字のおかげ。

認知科学や言語学が専門の2人の学者による本書は、言語の誕生と進化の謎に迫り、言葉を生み、操ってきた人そのものに焦点をあてていく。鍵となるのはオノマトペ(擬音語)。たとえば「ははは」は笑い声のオノマトペだ。「ひひひ」「ふふふ」「へへへ」「ほほほ」もあるが、少しずつ笑いのニュアンスが違う。耳に聞こえた音を写し取り、細かな意味まで伝えるオノマトペを本書では「擬態語」と呼ぶ。

大人は赤ちゃんにオノマトペまじりで話しかける。言葉の大海に泳ぎだそうとする赤ちゃんもオノマトペを聴いて、使って、言語を獲得していく。本書で紹介する子どもの言葉の言い間違いは、言葉のパターンを読み取ったうえで間違えているとわかり、子どもの推理力に驚いた。

内容は専門的で論理的。できたら言語に興味がない人にこそ薦めたい。運動が苦手な人は積極的に跳び箱の跳び方を知りたいとは思わないかもしれないが、知れば跳び箱を跳びたくなるように、言語のその面白さに驚愕し、人間だけが言葉を持つ意味に気づくだろう。

本書のもう一つのキーワードはアブダクション推論。人の学び方の一つで仮説形式とも言う。言葉は進化し、変化していく。ぼーっとしている間についていけなくなりそうだ。

だからこそ言語の本質に立ち返り、人間だけが使う言葉に込められた意味、築かれてきた言葉の歴史を繙いてみるのはどうだろう。