「取り付け騒ぎ」の発生

1カ月の間に4つもの金融機関が破綻したため、全国に不安が広がり、預金を引き出そうとする人が金融機関に殺到する「取り付け騒ぎ」も起こりました。

日本でバブル崩壊による取り付け騒ぎが起こったのは初めてではありません。

1919年にも株価と地価が高騰する「大正バブル」が発生し、早くも翌年弾けました。その後、大蔵大臣の失言がきっかけとなった取り付け騒ぎにより、500もの銀行が破綻する金融恐慌が起こりました。

当初問題となったのはひとつの金融機関でしたが、金融機関全体への信用が失われ、ひとたび取り付け騒ぎが起こると、他の多くの銀行も巻き込まれてしまうのです。

このため銀行は預金を引き出そうとする人の行列が外部に見えないよう必死になって隠しました。メディアが無責任に「あの銀行が危ない」などと書くと本当につぶれてしまうので、報道を自粛しました。

バブルというのは、その最中はわかりません。弾けて初めて「ああ、バブルだったんだ」と判明します。平成のバブル崩壊後、日本経済は長期にわたって低迷を続けることになりました。

「失われた10年」でもバブルの後遺症は癒えず、「失われた20年」「失われた30年」へと影響は続いています。

バブル後、金融機関の不良債権の処理は速やかに進まず、問題が先送りにされました。バブルに踊り、出世した人たちが金融機関の経営陣を占め、自分たちの誤りを認めることができなかったことが一因です。

バブル当時、無茶な融資拡大にブレーキをかけようとした真っ当な人たちもいましたが、左遷されてしまいました。

官僚たちも数年で異動してしまいます。つまり誰も責任をとる人がいないのです。

「いずれ地価が回復すれば解決する」という「土地神話」の呪縛から逃れられないことも問題の解決を遅らせました。

バブルは30年ごとに繰り返すといわれています。バブル崩壊の痛手を知らない世代が主力となるからです。謙虚に歴史に学ぶという姿勢を持たなければ、また同じ間違いを犯しかねません。

※本稿は、『池上彰の日本現代史集中講義』(祥伝社)の一部を再編集したものです。


池上彰の日本現代史集中講義』(著:池上彰/祥伝社)

日本に民主主義はあるのか? 戦後史から何を学ぶのか?
政治、経済、外交、安全保障、エネルギー……
学校では教えてくれない現代史を池上さんと一気に振り返る集中講義。

安倍政権の振り返り、戦後の日米関係、旧統一教会と自民党の関わり、政治とメディアの関係など、戦後、現代の日本をつくってきた様々な事象を池上さんが徹底解説。