5、6軒回ると、施設の質みたいなものが、なんとなくわかるようになります。雑然としているけれど、肝っ玉母さんみたいな施設長さんが仕切っている頼もしいところもあれば、電話では無愛想だったけれど行ってみたらしっかりした方針に基づき運営されているところもある。とにかく自分の目で見ないことには、何もわかりません。

雑誌などで「こういう施設は選ぶな」という情報も目にします。代表的なのは、排泄物のにおいがするような施設はだめ、とか。でも重症の方を受け入れて、看取りまでやってくれるところなら、おむつ交換の時間帯に見学すればにおいがフロアに充満しているのは当たり前。

見学したなかで、建物がすごくきれいで、落ち着いた雰囲気、しかも入居費が信じがたく安いところがありました。ただし条件がついていました。「他の人とうまくやっていけない方や、暴言や暴力が出たら即刻退去していただきます」と。もともとの性格や症状が穏やかな方にとっては理想的な施設でしょう。うちは無理ですけどね。

最近注目されているのが、ユマニチュードというケアのメソッドです。「心身の機能が衰えても、人間らしい存在であることを支える」という哲学のもと、近い距離でじっと目を見て語りかけたり、相手に触れるなどすることで、向精神薬などを使わなくても認知症高齢者が穏やかになると言われています。14ヵ所見学した末、たまたま空きがあったのが、それを実践している施設でした。

個室には自宅から家具などを持ち込み、なるべく住み慣れた環境を変えないようにとアドヴァイスがありました。そこで母が昼間過ごしていた我が家にあった家具や調度品、写真や小物をそっくり移し、今年3月、母はその施設に引っ越しました。

 

どう過ごすのが幸せかは、千差万別

老健にいる間、母は攻撃行動や興奮を抑えるための向精神薬やイレウスを予防する緩下剤を処方されていましたが、グループホームでは薬をやめることになりました。お腹の状態も食事で改善できるとのことで、毎日職員が手作りしてくださる食事は、すごくおいしそう。なんとおやつも手作りです。施設長さんの志も高く、職員の方も優しい。信じられないくらい理想的な施設でしたが、──結論から言うと、母には向きませんでした。

狭いリビングダイニングと、家庭的で親密な雰囲気。入居者どうしの会話も比較的多いのですが、そもそも母はおばさん同士のおしゃべりが何より嫌い。60歳まで看護師として働き、帰ってきたら休む間もなく家事をする人で、近隣の主婦が立ち話をしているのを横目に、「あんな暇があれば、家の中をきれいにすればいいのに」と眉をひそめるくらい。身内なら良いが、他人とお茶飲みや趣味にかまけるなど大嫌い。

いくら個室があるとはいえ、近い距離に身内以外のおばあさんたちがいて話しかけられ、時に文句を言われる環境はストレスの溜まるものだったようです。