38歳のおじいちゃん

トンプソンが引退し、ニュージーランドに帰国するというウワサを聞いていた。どのような将来を描いているのか。

「ぼくは来年の4月で38歳のおじいちゃんだけど、いまは日野戦だけに集中しています。ラグビーがめっちゃ好きだから」と両手で視界を狭める仕草をして「集中、集中ですね」とくり返した。

食に対する尊敬とは、食材となる動植物に感謝する日本人ならではの精神性だろう(写真提供:Photo AC)

年齢に触れた物言いが気になった。引退のウワサは本当なのではないか。W杯3大会に出場し、勝てなかった時代を支え、躍進の推進力になったトンプソンも、ついに……。現役のうちに、話を聞けてよかったと私は少しだけセンチメンタルな気持ちで、花園をあとにしたのだった。それが1週間前の話である。

熊谷ラグビー場のスクリーンにトンプソンが映し出された。献身的なプレーを物語るように、頭に巻いたバンデージはほつれて、頬には血が滲んでいた。

日野戦でもトンプソンのパフォーマンスはいつもと変わらなかった。攻撃の起点をつくるべく、何度も何度も相手のタックルに耐え、空中でボールを奪い合う。

だが、決定機を逃した近鉄は、リードを許したまま前半を折り返す。後半も攻め続けるが、ノーサイドのホイッスルが響いた。11対21。近鉄は目標だったトップリーグ昇格を逃してしまう。

これで見納めかもしれないな……。私は試合後、観客席の前で応援するファンに頭を下げるトンプソンの姿を感慨深く見守っていた。私の勝手な感傷を吹き飛ばすニュースが入ったのが、1カ月半後の2月5日。トンプソンのサンウルブズ追加招集の報だった。