トンプソンの偉大さ

サンウルブズは、日本代表の強化を目指し、海外のプロ選手と日本代表選手を中心に編成されたクラブである。2016年シーズンからニュージーランド、オーストラリア、南アフリカなどの強豪チームが争う世界最高峰リーグのスーパーラグビーに参戦。スーパーラグビーからは2020年で除外されるが、私もラグビーファンの一人として、毎年数試合、秩父宮ラグビー場の観客席で、サンウルブズを応援してきた。

トンプソンのスーパーラグビー参戦で思い出したのが、2017年6月に行われたアイルランド代表とのテストマッチである。

アイルランド代表とは、W杯日本大会でも対戦が決まっている。W杯の前哨戦ともいえる重要なゲームだった。ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフは、2015年W杯以来、ジャパンから遠ざかっているトンプソンを招集した。

なんで、36歳のトンプソンを……。2年後のW杯を見据え、若手を試すべきではないのか。私は指揮官の用兵を批判的に見ていた。だが自分の浅薄さとトンプソンの偉大さを思い知る。

第2戦に先発したトンプソンはすごかった。キックオフ早々、相手選手に強烈なタックルを見舞って、ボールを奪い返したかと思うとその後もタックル、タックル、タックル……。日本代表のタックルの半分くらいがトンプソンなのではないかと見紛う活躍。

翌日のニュースによれば、トンプソンのタックル成功数は24。両チームトップの数字だった。13対35で負けたのだが、36歳になったトンプソンのプレーに私は驚喜し、はじめて理解したのである。彼を並の選手と一緒にしない方がいい、と。

だからトンプソンのサンウルブズ参戦を知ったとき、私は、38歳のおじいちゃんのタックルが、W杯日本大会で日本代表を勝利に導くシーンを密かに思い描いたのであった。

 

※本稿は、『国境を越えたスクラム-ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


国境を越えたスクラム-ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(著:山川徹/中央公論新社)

「何があっても日本以外の国の代表になるわけにはいかないと思った」。かつてリーチマイケルはそう語った。ラグビーは、代表選手の国籍を問わない。居住年数など一定の条件を満たせば、国籍と異なる国の代表としてプレーできる。多様なルーツを持つ選手たちは、なぜ「日本代表」となることを選んだのか。

異文化の地で道を拓いた外国人選手たち、そして彼らを受け入れたチームメイトと関係者の奮闘があってこそ、今の日本代表がある。その歴史は、多様な人々との共生をさぐる日本社会とも重なってみえる。それぞれのライフヒストリーと、秘められた熱い思いをたどる。