「なんでそんなこと急に訊いてきたんだ」
「いや、まぁ俺も三年生で来年になれば高校卒業しちゃうんで」
「あー、進路か」
「そうすね」
 まぁ考えてはいたんだけど。夏夫がどうするかによって、こっちもいろいろ考えなきゃなって。
「今のところ、何をしようとしているんだ。就職するのか?」
「働くんなら、何でもいいんですけどね。ちゃんと働いて給料を貰(もら)えるところだったら。そしてすぐに一人で暮らしていける給料を貰えるところだったら」
 ヤクザな親の金で暮らしてはいけない。ずっとそう言ってきたからな。一刻も早く独り立ちしたいってのはあるんだろうが。
「大学にだって行けるだろ。その気になれば」
「どこでもいいんならね。でも、大学って勉強するところじゃないすか。俺、何を勉強していいかまったくわかんなくて」
 まぁな。そんなことわからずに、とりあえずなんとなく決めて行く奴も多いって思うけどな。
「とりあえず大学行きます、なんていう余裕はないもんな」
「そうすよ。まぁいろいろ手段はありますけど、自分が何も勉強する気がないのに行くのはそれこそバカじゃないですか」
「そうだなー」
 そんなふうに思えるだけ、お前はちゃんとした男になれるよって思うけどな。まぁ世間がどう思うかはまた違う話なんだが。
 学歴はあった方がいい。それはもう厳然たる事実だ。ただし、ろくでもない三流大学の学歴があったって、どうしようもないのも事実だしな。
 高卒で働いたって全然まったく問題ないんだが、本人の気持ちがなぁ。
 余裕があるんなら、自分がどんな仕事をやりたいのかを探すために、とりあえず大学に行くっていうのは、かなり安全な生き方なんだけど。
「このままうちでずっとバイトする、もしくは就職するっていう手もあるけどな」
「あるんすか」
「ないことは、ない」
 うちだって一応はちゃんとした会社だ。
 高校卒業したお前を、改めて正社員として、店員として雇うことはできる。
「ただ、お前のためを考えるなら、そうしない方がいいと俺は思ってる。こんなちっぽけなカラオケ屋の店員やって、いやそれが悪いってわけじゃないんだが、もっと何かできるだろうって思わないか?」
「何ができるかわかんないから、困ってるんですけどね。皆、どうやって自分の進路を決めてるんですかね」
 そうだな。資本主義の国に生まれた人間の永遠の課題かもしれないよな。
「皆に訊いてみればどうだ? どうやって大学行くか就職するか決めたのか」
「訊いてますけどね。結局は自分の意志なんで」
 そうだよな。
 焦る必要はない、ってことはないんだよな。もう決めなきゃならないんだ。進路によってはもう遅いぐらいだ。まぁ医者になるとか美大に進むってんでもない限りは、全然受験勉強も間に合うとは思うが。