「俺が思うに」
 なんですか、ってこっちを見る。
 実は夏夫、お前ものすごくいい男なんだよな。佇(たたず)まいがいいんだ。そして人目を引く印象的な顔つきをしている。それに、人と接することが自然にうまい。お客さんへの対応とか、どんな客商売の道に進んでも、成功できるぐらいの能力を持っていると思う。
 それを生かすのは。
「自分の才能で勝負する世界とかに、興味ないのか」
「自分の才能?」
 なんですか? って顔をする。そういう表情も、すごくいいんだ。彼女がいないっていうのが不思議なんだよな。
「お前、俳優とかに興味ないのか」
「俳優?」
「役者だ。演技をする人間だ。舞台や映画やテレビの中で、演じる人間だ」
「いや、なんすかそれ。俺、そんなのは小学校の学芸会でしかやったことないですよ」
「大抵の人はそうだよ。学芸会で何やった」
「メロス」
「メロスって、〈走れメロス〉か?」
「そうですよ」
「スゴイものやったんだな小学校で。おまけにど真ん中の主役じゃないか。自分で立候補したのか?」
「いやいや、先生や周りに言われてやっただけで」
「だろ?」
 才能って言葉はあんまり好きじゃないんだが、それは確実に存在するんだ。役者の世界ではさ。
「きっと先生も、クラスメイトもお前のそういう資質をわかっていたんだよ。お前は人目を引くし、演技をするのが巧(うま)いって」
 ええぇ、って顔を顰(しか)める。
「いやな、俺、実は若い頃に劇団入っていたんだよ」
「マジすか。劇団?」
「本当に一時期だけだけどな。一応、役者として舞台にも立ったことはある」
「あー、だからっすか。筧さん、映画とかドラマとか大好きですもんね。ずっと観てますもんね」
 そうなんだよ。
「でもなんで俺が演技が巧いなんてわかるんです?」
「お前さ、どんなお客さんにもきちんとした対応できるだろう? どれだけむかつく客でも、ピクリとも感情を表に出さないで普通の応対ができるんだよ。やってるだろ?」
「まぁ」
 できますね、って頷(うなず)く。
「それ、演技なんだよな。前から思っていたけど、お前演技をしているんだよ。自分では気づいていないんだろうけどさ」