「演技?」
 そういうものなんだ。
 自然に演技ができる人間と、できない人間がいる。それは持って生まれた資質ってのが大きいんだ。
「そういう資質を持って生まれた人間は、日常生活でもごく自然に演技をしているものなんだ。人当たりがいい人間っているだろ。ああいうのは自分でも気づかないうちに、演技のスイッチを切り替えてやっているんだ」
 そういうものなんだ。
 実際、巧い俳優なんて人は、どんな場合でもきちんと応対できるんだ。人見知りの俳優なんて実際にはいない。いたとしてもスイッチを入れれば人見知りじゃない自分を演出できる。
「態度のデカイ奴とかいるじゃないですか」
「そういうのは、売れてしまって勘違いしているバカだ。困ったことに人間有名になるとバカになる奴が多くてさ」
 それはもうどうしようもないものだからな。
「とにかく、お前には華があるんだ」
「はな?」
「人前に立つことによって生まれる雰囲気、華がある。そして絶対に演技ができる。俺がお前の身内だったら劇団に入って役者やってみないか? って絶対に言っていたんだけどな」
「俳優ですかー」
「ただな、そればっかりはな、やりたくもないものを無理にやらせるものじゃないし、何よりも役者なんて文字通り水商売だ。稼げる俳優になれるなんてのは、ミュージシャンや作家と同じでほんの一握りの人間のみだ。とにかく独り立ちするためにきちんと働きたい、なんていうお前に勧めるようなもんじゃないからな」
 うーん、なんて考えてるけど。
「本当にな、これはバカみたいな話だから気にしなくていいんだけどな。ただ、お前はまだ高校生で、これから何にでもなれるし、どこにだって行ける。お前の可能性の大きさだけはとんでもなく大きいんだぞ、とは、ずっと言いたかった」
 それは、皆にだ。
 世界中の子供たちに言いたい。言ってあげたい。そして言ってあげられる環境を作りたい。
 まぁ、それもバカみたいな話なんだが。
 子供が自分の可能性を信じられない社会になっちまってるなんて、完全に俺たち大人の責任じゃないか。
「ま、どうしても、だ。どうしてもだぞ? 就職でも進学でもいいけど、どうにもならなくてにっちもさっちもいかない状況になっちまったら、このまま高校卒業しても雇ったままでいてやるから、そこだけは安心しておけ」
 とりあえず、食うには困らないようにはしてやるから。