お茶断ちしていたはずなのに

私の弟が幼くして亡くなり、その供養でお茶断ちをしていた母。家で皆にお茶を淹れるときも、母が飲むことはありませんでした。そして毎日のように、朝の家事が終わると弟の供養のため、歩いて15分ほどのお地蔵様に出かけていくのです。

私が女学生だったある日、お参り中の母を探しに行く必要がありお地蔵様に向かったところ、門前の茶店の奥で母を発見。なんと、ひとりでビールを飲んでいました! 母の秘密を知ってしまったようで、声をかけることができず、そのまま帰宅。家族には「見つからなかった」と報告しました。帰宅した母は酔った様子もなく、平然とした顔。お酒に強い人だったのかもしれません。

茶店での一服は母の大切な時間だったのでしょう。お茶断ち中でもビールはOKとした大胆さを、娘の私はいまだに越えられそうもありません。(85歳・無職)

 

母が死ぬまで追求した夢

30年前のこと。ある日知人から「お母さん、市議選に出たの?」と聞かれ、「まさか〜」と笑って否定したものの、いやな予感がしました。母の部屋の押し入れを開けてみると、選挙のポスターや、たすきなどが!帰宅した母を問い詰めたら、母の実家の選挙区で出馬したと言うからびっくり仰天。しかし落選して事なきを得ました。

その後も母は選挙のたびに立候補。「ポスター貼りのために車を出して」と頼まれたのが母74歳のときでした。幼馴染みのいる区だし万年落選だし、恥ずかしいからと断ったけれど、その2ヵ月後に母は他界。遺品には書き溜めた小説もありました。今思うと、議論好き、新しいもの好きでエネルギッシュな母が秘かに持ち続けた夢が小説家と政治家だったのでしょう。

あのとき車を出して手伝ってあげていればと、世間体を気にした自分をちょっと後悔。(59歳・会社員)