樋口先生「私の寿命が木造の家の寿命を追い越してしまった」(写真提供:Photo AC)
平均寿命が伸びる一方で、長生きによる「老い」に直面する場面も増えています。以前と違う自分に戸惑ったり、忘れてしまうことに恐怖を感じている方もいらっしゃることでしょう。91歳になった今でも執筆活動を続けている、評論家・東京家政大学名誉教授の樋口恵子さんは<老いのトップランナー>として、「自分の老いを実況中継しながら、皆さんにお伝えしてご一緒に考えていきたい」と話します。その樋口さん「私の寿命が木造の家の寿命を追い越してしまった」と言っていて――。

84歳で家を建て替えた

無謀だと言われつつも84歳で家を建て替えました。お金もかかりましたし、引っ越しの疲れも予想以上でした。でも、毎日の暮らしが本当にラクになりました。決断してよかったと今は思います。

40代で建てた木造2階建ての家は、亡夫と私の膨大な本と資料で、痛めつけられていました。2007年の大雨で盛大な雨漏りが始まり、270万円かけて修理したんです。

でも東日本大震災の後、耐震性の検査を受け、震度5以上の地震に見舞われたら全壊の恐れあり、と専門家に言われて。私の寿命が木造の家の寿命を追い越してしまったのですね。

もともとは、私の老いの住み処としては、有料の民間高齢者施設に入るつもりでしたが、家を処分したら同居している娘の住むところがなくなってしまう。

娘にせめて家くらいは残してやりたかった。親子で住んでいると、相続税の軽減*1もあるため、建て替えを決意しました。

*1 相続税の軽減:同居要件を満たせば相続税が軽減できる「小規模宅地等の特例」のこと。故人が居住していた宅地(特定居住用宅地等)の場合、330平米までを限度として、相続税評価額を80%減額することができる制度。宅地を相続する人が「同居する家族」であることなどが必要。