おひとりさまの熱烈《推し活》
後援会に入ればさまざまな特典があり、茶話会などで本人にも会えることもわかった。だが、ユキコさんはあえて入会していない。
「サインがほしいとかご本人と直接話したいとか、もちろんそういう思いもあるんですけど、私はもっと別次元のファンを目指そうと思いまして(笑)。とにかくいい席で、彼の舞台をたくさん観たい。それだけです」
コロナ禍で歌舞伎座が休館していたときは、繰り返しDVDを観た。再開後の最初の仁左衛門丈の舞台は4回観に行った。
「夫にも仁左衛門さんの魅力をとうとうと語ったことがありましたが、夫はびっくり。『お母さんがこんなに情熱的な人だとは思わなかった』って。そういえば私は、何かにはまったことがないんです。あまり感情的にもならないタイプ。だけど仁左衛門さんの舞台では、今まで何度号泣したかわかりません」
私は深く共感した。今年6月の『義経千本桜』はよかった、とユキコさんと盛り上がった。魂が揺さぶられるほどの壮絶な舞台だった。
彼の魅力を誰かと分かちあいたいと思うこともあるが、ファン同士であっても必ずしもわかりあえるとは限らない。誰にも邪魔されず、ひとりで舞台を観に行くほうがいいと思っているそうだ。
「この7月も大阪に3泊ほどして、連日、舞台を堪能しました。大阪にいる昔の友だちにも会えた。行動範囲が広がるのも楽しいですね」
おひとりさまの熱烈《推し活》をユキコさんは思う存分楽しんでいる。