(イラスト:macco)
内閣府が発表した令和4年版高齢社会白書によると、65歳以上で一人暮らしをしている人の割合は男女ともに増加傾向にあり、昭和55年は男性が4.3%、女性11.2%でしたが、令和2年には男性15%、女性22.1%となり、女性の5人に1人は一人暮らしをしている状況です。さらに、家計調査報告(令和4年)によると、65歳以上の単身無職世帯の実収入は134,915円で、消費支出は143,139円と、消費が収入を上回る状況。日々家計のやりくりをしながらも、生活の中に楽しみを見つけ出したいもの。一人暮らしの池野ハルさん(仮名・東京都・無職・79歳)は夫に先立たれた悲しみを、ある人物が埋めてくれたらしく――。

柔らかな声に安心感を覚えて

去年6月に夫、8月に実姉が立て続けに亡くなってしまった。寂しさのあまり毎朝起きるのがつらくて、いつまでも寝床でじっとしてしまう。そんな私を、整理ダンスの上から夫の写真が見つめている。「わかったよ。起きるよ」と、思い切り布団を蹴り上げた。

台所で昨日の残りのごはんにお湯をぶっかけ、漬物だけで、さっさと朝食を済ます。それから薬を飲み、鏡を見ると、目が潰れたようになっている。いつも涙を流しながら眠るからだ。夫にもっと優しくしていたら、オムツも私が替えてあげていたらなど、反省ばかり。

時折、娘が心配してインスタント食品を持ってきてくれたり、掃除をしてくれたりするので助かっている。パジャマに上着を羽織って手紙を出しに行く私に、「みっともないからやめなさい」と娘は言うけれど、顔など洗いたくない。じっと布団をかぶっていたいのだ。

ある日、家に食料が何もなくなったので、渋々外食することに。杖をついてヨチヨチ歩いていると、近所の喫茶店が見えた。そこは、曜日で変わる間借りタイプの店で、よくわからない店だなと思い、いつも通り過ぎるだけだった。

だが、「あれ、今日は看板が出てるわ」と、メニューが書かれた黒板を見てみると、「ナポリタン」「チキンライス」などとある。ナポリタンは私の大好物だ。