母のマンションには、月に1回ほど昔からのお友だちやファンの方たちが集まって、食事会を開いてくれています。シングルマザーや働きながら一人で生きることを選んだ女性も多く、母は昔から「わが家はいつでもウェルカム。ご飯だけは用意しているから食べに来て、よければ泊まっていって」と、彼女たちに声をかけていました。

特に年末年始は家族の縁が薄い人が寂しい思いをしがちだからと、クリスマスやお正月には大勢の女性を集めて、にぎやかに食卓を囲んだ記憶があります。

「洋子先生には、美味しいものをたくさんごちそうになりました。だから今度は私たちがお返しに」と言って集まってくれる皆さんには、感謝しかありません。私も時々参加するのですが、今となっては母は誰がどなたかもあまり区別がついていないみたい(笑)。でも、大勢でおしゃべりしながらご飯を食べるのが、本当に楽しそうなのです。

料理はそれぞれが持ち寄る時もありますが、料理好きな人がキッチンに入ってごちそうを振る舞ってくれることも。

母は昔から自分のキッチンに誰が入っても平気で、「あなたはこれやって」と、お客さんでもかまわず指示するのが上手でした。そうやって手伝うことで、初めて来た人もリラックスしてその場に溶け込めるんですよね。だから親密になれる。

誰に対しても、いつでも開かれているという意味で、母の台所は「オープンキッチン」でした。それが年を重ね、病を得てからも母の支えになってくれているのは嬉しいことですし、自分たちの将来に向けたヒントになりそうな気もしています。

ただ、私は正直――1人になって、自分の好きなものだけ食べる生活が夢(笑)。だって何十年も、10人以上の人たちのためにご飯を作り続けてきましたから。私が海外にいる時でも、アシスタントから「今日の献立は何にしましょう?」と連絡が入るのです。だから、電話がかかってくるとドキッとしてしまう。

私、子どもが大きくなってから、朝ご飯だけはずっと自分のためだけに用意しているんです。買っておいた好きなパンやキッシュを温めて、コーヒーを淹れ、海を見ながら食事をしている時がいちばん幸せ。人生の最後はホテルで暮らして、食事もすべてレストランで、というのが憧れです。

そんなことを考えながらも、子どもたちが「明日帰るけど、夕飯は何?」と聞いてくると、好物が頭にパッと浮かんで嬉しくなります。食べること、そして作ることは、私の人生の大切な軸であるのは間違いないのでしょうね。