原始を舞台に、壮大な物語がここから始まる
2013年、伊坂幸太郎の呼びかけで始動した競作企画「螺旋プロジェクト」。〈「海族」と「山族」の対立が列島を燃え上がらせ、原始から未来への壮大な絵織物(タペストリー)を織り上げる〉という共通コンセプトのもと、8組9名の作家が、原始、古代、中世・近世、明治、昭和前期、昭和後期、平成、近未来、未来を舞台にした小説を発表。大森兄弟の『ウナノハテノガタ』は、その長い長い物語の初めの一歩にあたる作品なのだ。
ウナ(海)の恵みを受けて生きる一族イソベリ。死の概念を持たない彼らには、動かなくなった者、息をしなくなった者を島に連れていけば、苦しみは失せ、イソベリ魚になって自由気ままに生きられるという言い伝えがある。島に渡る役目を担えるのはハイタイステルベと呼ばれるカリガイだけ。地震の余波で落ちてきた石に当たり動かなくなった妻を島に連れていく際、カリガイはいずれ跡を継ぐ息子オトガイを同行させる。しかし、少年が見たのは無惨に腐っていたり白骨化している仲間や先祖たちの姿だった。息子に、島で見たことは誰にも話してはいけないと強く諭すカリガイ。
島から帰ってきたオトガイは砂浜で一人の女を発見する。それは崖の上、森の奥に住むヤマノベ一族のマダラコ。生贄として生きたまま火あぶりにされそうなところを、地震による火事に乗じて逃げのびてきたのだ。やがて、やけどを負ったヤマノベの残党たちも崖を降りて海辺にやってくる。こうして、言葉も風習も価値観も異なるふたつの部族が出会い、物語は大きく動き出していくのだ。
原始時代ゆえに、未知の言葉を生みだすなどの工夫が凝らされた1作。これを手始めに他作品も読んでみたくなる。
著◎大森兄弟
中央公論新社 1600円