義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

「こういうことですか?」
 日村は言った。「中目黒署のマル暴から、仙川係長が何か言われたわけですね? それで、甘糟さんがここにいらっしゃったと……」
 甘糟は、どうしていいかわからない様子で、しばらく視線を床に落としていた。やがて、彼は言った。
「俺、そんなこと、言ってないからね」
「わかりました。甘糟さんは何もおっしゃっていません。私が勝手に想像したことです」
「……でさあ、その中目黒署の組対係のやつって、仙川係長に輪を掛けて嫌なやつでね。いきなり、おまえら、管内の組の手綱も握ってられねえのかって怒鳴ったらしいんだよ。係長、すっかりへそを曲げちまってさ……。何か持ち帰らないと、今度は俺が怒鳴られちゃうんだよ」
「申し訳ありませんが、本当に自分ら、ご住職の話を聞きにうかがっただけなんで……」
「どういう経緯で、目黒区の寺なんかに行くことになったわけ? ここからずいぶん遠いじゃないか」
「ちょっと縁がありまして……」
「どんな縁?」
「縁は縁です。どんなもヘチマもありません」