写真家・篠山紀信さんが、2024年1月4日に逝去しました。今年創刊108周年となる『婦人公論』の表紙は数々の著名な画家や写真家の作品で飾られてきましたが、篠山さんは、1998年3月22日号の大判・隔週化したリニューアル号から2021年9月28日号まで、23年間542号分の表紙撮影を手がけてくださいました。本企画では、篠山さんを偲び、魅力あふれる表紙の一部と、篠山さんと深いご縁のあったお二方より寄せられた言葉を紹介します
一番良い瞬間を撮りきる――歌舞伎俳優 坂東玉三郎さん
篠山さんと出会ったのは私が19歳の時でした。国立劇場で忠臣蔵の初役の「おかる」(『仮名手本忠臣蔵』)を撮影していただきました。
女方の衿元を綺麗に撮ってくださったのがきっかけで、それから50年以上のお付き合いになったのです。いつも被写体の一番良い瞬間を撮りきってしまう方でした。
篠山さんは常々「写真家に老成はないよ」と言っておられたことが忘れられません。
最近になって「篠山さんは、どのような人生の後半を過ごされるのかなあ……」と思っていました。人生100年の時代ですから、83歳の生涯というのは残念でもありますが、写真家としての人生を全うした素晴らしい写真家であられたと思うのです。
先生が亡くなる2週間ほど前、ポスターの撮影で歌舞伎座にいらっしゃった時に、私も立ち会わせていただいたのが最後の撮影になったのです。深い御縁を感じました。