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わが子のため、と耐えて続けた結婚生活なら、子どもが巣立ったいま、いよいよ解放されてもよいのではないか。そんな思いが頭をよぎった人は少なくないだろう。しかし、期せずして別れを踏みとどまった妻たちがいる。家族を突然襲った危機が、思わぬ絆になったからだ。香澄さん(仮名)は家庭を顧みない夫に対して不満を持っていたが…(取材・文=武香織)

娘たちを連れて、俺の実家で楽をしてこい

大手企業のキャリアウーマンだった香澄さん(65歳)は、「結婚後も仕事を続けていい」という恋人の言葉を信じ、29歳で結婚する。

しかし長女を出産後、職場に復帰しようとすると、「会社での仕事は誰でもできるが、この子を育てることは代えのきかない貴重な経験だ。母親業に徹してほしい」と夫に説得され、家庭に収まることに。その後、次女にも恵まれる。

「娘たちの教育にしっかり向き合った時間は確かに充実したもので、毎日が忙しく、あれよあれよという間に時が過ぎ去っていきました」

ところが、子どもたちが大学へ進学すると、香澄さんの胸に、大きな虚しさと忘れかけていた仕事への未練が押し寄せてきた。それに伴い、封印していた夫への不平不満がひとつ、またひとつと鮮明に浮き上がる。

夫はまるで生活感覚のない人だった。自身の衣料費や交際費には糸目をつけず、結婚後も給料を丸ごとポケットマネーにする。香澄さんのそれまでの貯蓄が尽きて「生活費を入れてください」と頭を下げるまで、一円も家に入れなかった。

次女を出産した直後など、「娘たちを連れて、俺の実家で楽をしてこい」と命じた。昔気質の義父母のもとで楽などできるわけもなく、香澄さんは何度も固辞したが、夫は聞く耳を持たない。渋々、幼子を抱いて遠く離れた夫の実家へ行くと、1ヵ月近く義父母の世話のみならず、同居中の親族の介護までさせられたという。

しかもようやく戻った自宅で、夫に宛てられた女性からの手紙の束を発見する。読めば、あのつらい義父母孝行中に繰り広げられたと思われる、蜜月の日々が綴られていた。問いただしても、嘘が見え見えの知らぬ存ぜぬ……。

平日は毎日、午前様。家族旅行は仕事を理由に不参加なので、いつも3人だ。週末、家事や育児に疲弊した香澄さんがレストランでの食事を望めば、「俺は毎日外食なんだぞ」と少しの思いやりも感じられない。