撮影:本社写真部
人生後半の時間を楽しく過ごすためには、「どこ」に住み、「誰」とつながりあうかが重要です。そう考え、那須に移住した作家の久田恵さん。そこにはどんな暮らしがあるのか。現地に久田さんを訪ねました(取材・文=山田真理 撮影=本社写真部)

70歳で東京を離れ「サ高住」に

JR東北新幹線の新白河駅から車で約15分。ゆるやかな丘の上に、コテージ風の木造の住戸が6~7棟ずつ集まって建っている。住戸に囲まれた中庭には、居住者が思い思いに育てる草花や野菜が。「けっこう皆さん、好き勝手に植えて楽しんでいるのよね。そうした“自由さ”が気に入って入居を決めました」と久田恵さんは笑顔で語る。

ここは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の「ゆいま~る那須」。2018年の2月、久田さんはブログで突然「栃木県那須に拠点を移します」と宣言して、周囲を驚かせた。筆者もその記事を目にして、東京からの移住という思い切った決断だけでなく、「70歳でもうサ高住に?」と戸惑いを覚えた記憶がある。

サ高住は、建物のバリアフリー仕様や生活相談、安否確認などのサービスを提供することが都道府県の基準で義務づけられている賃貸住宅。介護が必要な人向けの施設(老人ホームやグループホーム、介護型ケアハウスなど)とは違い、自立した生活を送りながら見守りや食事提供といったサービスを受けられる住まいだ。

筆者の父も亡くなるまで都内のサ高住で暮らしていたが、入居の決断をしたのは84歳のとき。気難しい人だったので、ここは騒がしい、あそこは病院が遠い、食堂で知らない人と同席するのが嫌だと言って、結局わずか4年間で3ヵ所もサ高住を替わることになった。

その間に痛感したのは、サ高住を始めシニア世代が終の棲家と考える住宅や施設は、物件もサービスも千差万別。入居者にとってベストな選択をするのはとても難しいということだった。

 

自然に囲まれた自由な空間

「今の時点で、ここを終の棲家にするかはわかりません。そもそも私の人生、予定通りに進んだためしがないから(笑)。先のことは考えず、今が幸せならいいじゃないという主義で生きています」

離婚してシングルマザーとして働きながら息子を育て、30代後半から母親の、続いて父親の介護も担ってきた久田さん。70歳になったら、人生を少し変えてみたいと考えていたそうだ。

「数年前、私の主宰する人形劇団を古くから支えてくれていた友人が病気で亡くなったことも、生き方を考え直すきっかけになったような気がします」