厚生労働省の「令和4年 人口動態統計」によると、日本人の死因第2位は「心疾患」で、23万2879人が亡くなったそう。そのようななか、「命にかかわる血管と心臓の病気も、生活習慣で予防できる」と話すのは、2012年に当時の天皇陛下(現・上皇陛下)の執刀医を務めたことで広く知られる、心臓血管外科医の天野篤先生。今回は、天野先生が「命を落とすリスク」を減らすためのアドバイスをまとめた自著『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』より、一部引用、再編集してお届けします。
血圧が下がると、まず腹痛が起きる
夏は血圧が低下する季節です。気温が上昇すると体内にも熱がこもるため、その熱を放散しようと血管が拡張します。
また、汗をたくさんかくと血管内の水分と塩分が失われ、血液量が減少します。こうしたことから血圧が下がりやすくなるのです。
血圧というと高血圧ばかりが問題視されますが、低血圧も軽く考えてはいけません。
血圧が低いことそのものは、高血圧のようにほかの病気には直接つながりませんが、めまい、立ちくらみ、頭痛、全身の倦怠感といった症状が生じ、失神して命にかかわるような大きな事故につながるリスクがあるのです。
低血圧には明確な基準はありませんが、WHO(世界保健機関)によると、安静時で「上の血圧(収縮期血圧)100mmHg以下/下の血圧(拡張期血圧)60mmHg以下」とされています。
普段は正常範囲なのに急激に血圧が低下して上の血圧が70以下になると、まず腹痛が起こります。これは、われわれの体の仕組みが関係しています。
というのも、血圧が下がって血流が少なくなると、体は優先的に脳、心臓、腎臓に血液を送ろうとします。そのため、ほかの臓器への血流が減って影響が出るのです。
具体的には、胃への血流が減ると胃粘膜の保護機構が障害されて腹痛が起こるのです。さらに低血圧が続いて脳への血流が減ると、意識消失を招きます。
高齢者は動脈硬化が進んでいる場合が多く、血管に弾力性がないため、急激な血圧低下を起こす可能性が高くなるので注意が必要です。