義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
行き先は多嘉原会長のところだった。
阿岐本の指示に従って、稔がカーナビに住所を入れていた。
「葛飾(かつしか)区金町(かなまち)三丁目……。このあたりですね」
稔が車を停めた。車窓から外を見た阿岐本が言った。
「ああ、ここだ」
金町三丁目は住宅街だ。阿岐本が「ここだ」と言ったのは、立ち並ぶ一戸建て住宅の一つだった。
まったく目立たない二階建ての家だ。日村も車を降りてその家の前に立った。たしかに表札に「多嘉原」とある。
「ここが多嘉原会長のご自宅ですか?」
日村が尋ねると、阿岐本がこたえた。
「昔は事務所もあったようだが、今は若い衆を置かなくなったようだ」
「はあ……」
暴対法の影響は大きい。かつてはテキヤを何百人も抱える大きな組織だった多嘉原組も、今はこの有様だ。
玄関で阿岐本が声をかけると、驚いたことに多嘉原会長本人が現れた。