「美容院から帰ってくると、〈今日はきれいですね〉(笑)。基本的に彼は敬語なんです」(撮影:洞澤佐智子)
『日本のいちばん長い日』『昭和史』など数々のノンフィクションを執筆し、昭和史の語り部と称される作家で歴史研究家の半藤一利さんは、2021年1月、90歳で亡くなった。妻でエッセイストの半藤末利子さんが、疎開中の出会いから始まった二人の思い出を辿る(構成:篠藤ゆり 撮影:洞澤佐智子)

前編よりつづく

夫婦の危機

結婚後、彼は相変わらず「好きです」「愛しています」などと言葉にしてくれました。日本人の男性としては、珍しいわよね。

美容院から帰ってくると、「今日はきれいですね」(笑)。基本的に彼は敬語なんです。でもまぁ、私はいつも言いたい放題でしたけどね。(笑)

彼は編集者と作家の二足の草鞋を履いていたこともあって、おつき合いも多く、とにかく忙しくてしょっちゅう午前様。引っ越しをする際は、土地探しから建築選び、後片づけまで、すべて私一人でやりました。

朝、「今日からこの住所に帰ってきてください」とメモを渡しても、やっぱり午前様。しかも、道に迷って新しい家に辿り着けないの。(笑)