義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 それからまた何日か経った。十月二十七日月曜日の午後三時半頃、インターホンのチャイムが鳴った。
 事務所には、いつものとおり、日村と若い衆がいる。日村はいつものソファだ。
 真吉がインターホンで応対する。
「あ、香苗です」
 日村は言った。
「何の用か訊いてみろ。用がなければ、帰ってもらえ」
 真吉が尋ねた。
「どうした、香苗。何か用事か?」
 インターホン越しに香苗の声が聞こえてくる。
「おじいちゃんが、コーヒーを持ってきたのよ」
 真吉が振り向いて日村に尋ねた。
「どうします?」
「坂本のマスターがいっしょなのか?」
「そのようですね」
 マスターを追い返すわけにはいかない。
「しょうがない。入れてやれ」
「はい」