埋葬の痕跡(写真提供:Photo AC)
「死んだらどうなるのか」「天国はあるのか」。古来から私たちは、死や来世、不老長寿を語りついできました。謎に迫る大きな鍵になるのが「宗教」です。日本やギリシアの神話、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教から、仏教、ヒンドゥー教、そして儒教、神道まで。死をめぐる諸宗教の神話・教え・思想を歴史的に通覧した、宗教学者・中村圭志氏が綴る『死とは何かーー宗教が挑んできた人生最後の謎』より一部を抜粋して紹介します。

「死」をめぐる諸宗教の神話や教えや思想

宗教は人生最後の謎「死」に挑んできた。宗教にとって「死」が本質的なテーマであることは言うまでもない。

人類史の黎明期(れいめいき)から宗教らしきものがあったのではないかと考古学者らが考えているのは、紀元前何万年にさかのぼる埋葬の痕跡が残っているからだ。

伝統的な宗教と死とのかかわりは、おおむね次のような形に整理できる。

第一に、宗教のほとんどは死後も霊魂が何らかの形で生存していると説いていた。その霊魂は暗い冥界で永遠に暮らすのかもしれないし、先祖の国に行って個性を消失するのかもしれない。

あるいは、天国や地獄に行くのかもしれないし、この世に舞い戻ってくるのかもしれない。

第二に第一の側面とは部分的に矛盾する見方だが、宗教は死の滅びとしての側面を強調してきた。いかに栄華の暮らしを誇っても、あらゆる人間は死ぬ。

永遠に生きる神に対して、「死すべきもの」というのが人間の本質だ、という教えもある。

ここで「滅ぶ」にもいろいろあって、文字通り消失してしまうのかもしれないし、家族や友人、財産や業績、諸々の世俗的欲望から切り離されるという「別れ」や「断念」を意味しているのかもしれない。