長きにわたって人々に鑑賞されてきた西洋の名画には、薔薇やリンゴなど、よく描かれるシンボルがあります。このようなシンボルについて、ベストセラー『怖い絵』シリーズの作者であるドイツ文学者の中野京子さんによると「ちょっとした知識があれば、隠された画家からのメッセージを探りあてることができる」とのこと。そこで今回は、中野さんの新著『カラー版-西洋絵画のお約束-謎を解く50のキーワード』から、西洋絵画をより深く読み解く手がかりを一部ご紹介します。
道化
中世ヨーロッパでは、「職業としての道化師」「知能の低い者」「心身を病んだ者」が、どれも同じ「道化」と呼ばれた。
やがて「阿呆は目印を持たねばならぬ」との考えのもと、宮廷道化師は派手な衣装、ロバ(愚かさの象徴)の耳を付けた帽子、居場所を知らしめるための鈴付き杖が3点セットになる(ボスの『愚者の船』が典型例)。
彼らはその滑稽な振舞いで宮廷に笑いを提供したが、一方で「阿呆の特権」によって王に対しても辛辣なことを言う自由を許され、愚かどころか賢くなければ務まらない場合もあった。
この陽気な阿呆としての道化のイメージは長く続いたが、18世紀頃から白塗りの顔(時に涙の模様も加えられた)、だぶだぶの白い衣装の、滑稽味と哀愁の混じったイメージを持つ「悲しきピエロ」へと変貌し、まもなく無垢なロマンティスト、報われぬ芸術家、恋に悩む青年などと結びつけられた。