初エッセイを上梓した岩井勇気さん(撮影:本社写真部)
お笑いコンビ「ハライチ」のボケ担当として活動中の岩井勇気さん。初のエッセイ本のタイトルは『僕の人生には事件が起きない』。どうしてこのようなタイトルにしたのでしょうか?(撮影=本社写真部 構成=上田恵子)

平々凡々な日常でも、もっと楽しめるはず

僕は普段、お笑いコンビ「ハライチ」のボケ担当として活動しています。相方の澤部佑は幼稚園からの幼馴染み。コンビでの活動歴は14年になります。お笑いのネタ作りは僕がしていますが、普段本は読みませんし、本格的な文章を書くのも今回が初めてです。

エッセイの執筆には、ネタ作りとは違う難しさを感じました。職業病なのか、笑いのない“間”が不安で仕方なくて。たとえば落語って、最後に大きなオチが待っているにもかかわらず、合間合間にも笑いどころがありますよね。そこで僕も最初のうちは小さなボケを入れてエッセイを書いてみたのですが、編集者の反応が悪かった。今はさいごにオチをつけてまとめることだけを意識しています。

本書は30代独身、一人暮らしをしている僕の「どうでもいい日常」を綴ったものであり、タイトルの通り、あっと驚くような大事件の類は一切起きません。普通に暮らしていたら、そうそう事件なんて起こらないものですよね。でも、平々凡々であっても、見方を変えれば面白くなる。それを知って、日常を少しでも楽しめるようになってもらえたら、という思いがあります。

僕が気に入っている「組み立て式の棚からの精神攻撃」という章にしても、通販で本棚を買ったものの、部品の多さと説明書の難解さから組み立てに挫折した……というだけの話なんですよ。ちなみに本棚はまだ完成していません。ネタにしてエッセイが書けたので、気が済んでしまいました。

原稿は、いつも夜中に書いています。帰宅して、入浴などやるべきことをすべて済ませてからパソコンで。テレビやラジオがついていてもダメ。書き始めてからは早くて、ほぼ一晩で書き上げます。日頃自分がモヤモヤしていることを溜めておき、それを言語化しているので、題材に困ることもありませんね。原稿は誤字を修正される程度で、ほぼそのまま。僕としてはゴーストライターみたいな人がいて、書き直されるのかなと思っていたんですが。(笑)

実家の母は、この本を15冊買って親戚に配ったそうです。読んでどう思ったか、などは聞いていません。昔はお笑いの感想を僕に言ってきたんですけど、ことごとくマイナスな意見。「お笑いを知らないくせに言うなよ!」と怒ったら、何も言わなくなっちゃった。

『僕の人生には事件が起きない』岩井勇気・著

テレビのお笑いに関しては、「お約束ごと」ばかりになってしまい、僕としては面白くないですね。たとえば、ケンカなどハプニングが起きたように見せていても、実際はすべて台本ありきで予定調和の展開。ですから、アニメ以外のテレビ番組はほとんど観ないんです。

もし、僕がテレビで「30分自由に使っていいよ」と言われたら、街頭インタビューを延々と流す番組をやってみたいかな。情報番組で使われているのは、番組側が都合よく編集したものなのでつまらない。本気で一般大衆のコメントをそのまま流したら、危ない意見や尖った意見も次々と飛び出して面白くなると思います。

僕の本のタイトルを見て「事件が起きない本って面白いの?」と疑問に思った方は、どうぞ他の誰かが書いた「俺の人生には事件が連続して起こる」というような本を買ってください(笑)。「別に起きなくてもいいけど、日常にある面白さを知りたい」と思った方は楽しんでいただけるかと思います。