(撮影:本社・武田裕介)
1994年に『姑獲鳥の夏』で作家デビュー。1996年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、2003年『覗き小平次』で山本周五郎賞、2004年『後巷説百物語』で直木賞を受賞。今年作家生活30周年を迎える京極さんに、夏の納涼歌舞伎のために書き下ろした小説『狐花 葉不見冥府路行』について伺いました(構成:山田真理 撮影:本社・武田裕介)

歌舞伎のために書き下ろした小説 

広告デザインの仕事をしていた30歳の頃、企画書を書くふりをしながら会社のワープロで書いた小説を出版社に持ち込んだところ、運よく編集者の目に留まってデビューしました。早いもので、今年は作家生活30周年になります。

本作は歌舞伎の脚本として書き下ろし、今年8月の納涼歌舞伎で上演されました。伝統芸能は好きでしたし、「歌舞伎化を」と言われた時は「過去のどの作品を舞台化してくれるんだろう」と光栄に思いました。

ところが最初の打ち合わせで「書き下ろしの脚本をお願いします」と依頼され、さらに「小説としても出版しましょう」という話も進んでしまったのです。その時点ではもう嫌とは言えなくなっていた(笑)。

脚本と小説では書き方の勝手がまるで違いますから、それぞれ今までにない苦心をすることになりました。

そもそも歌舞伎というものは、その時代の空気や文化、観客の気持ちを汲みながらつねに変化してきたもの。わかりやすく、届きやすく、面白くすることに特化してきた芸能であり、そこが僕は大きな魅力だと思っています。

たとえば、「幽霊には足がない」というイメージ。あれは、もともと歌舞伎の演出の影響が大きいんです。この世のものでないことを示すために宙に浮かせ、足を隠すために着物の裾を長くしてすぼめる。それが浮世絵に描かれ、徐々にスタンダード化して後に映画などにも踏襲されたわけで。