歌舞伎界の若手ホープ、片岡千之助さん(24)が、NHKの大河ドラマ『光の君へ』に初お目見えした。一条天皇と藤原定子の第一皇子・敦康親王(あつやすしんのう)役での出演が7月に発表され、画面への登場が待ちわびられていた。10月13日放送の第39回「とだえぬ絆」で、元服前の角髪(みずら)姿で登場。ドラマ後半のキーパーソンの一人である敦康親王をどんな思いで演じたのか。初の大河ドラマ出演でどのようなことを得たのか。
(構成◎山田道子)
周りから期待される後継者の立場
<千之助さんは12歳から21歳までを演じる。敦康親王は、一条天皇の長男で後継第一候補。しかし、道長は、彰子が生んだ敦成親王を後継(東宮)にしようと画策。一条天皇や彰子は敦康親王を推すものの叶わず、敦康親王は東宮になれなかった。千之助さんは7月、キャスティングが発表された際、こうコメントしている。「僕自身も家を継ぐというような環境に長男として生まれた身ということもあり、敦康親王も長男としてお生まれになり、本来ならばそのまま皇太子になられるはずが、人々の思惑、また世の中の流れによって、悲劇的な運命を辿られる生涯であったと思います。ただ、悲劇的であったと言いましても、父上や2人の母上をはじめとするいろいろな方に愛されて育った方だと思っております」>
周りからの期待もとにかくある立場です。〈この人が継いで当たり前〉というのは敦康親王にもあったし、僕も、当たり前だとは思われていないかもしれないけれど、家系図的には「この人が家を背負っていくのか」とよく言われます。常に重たく受け止めて生活をしているわけではないのですが、でも絶対にぬぐえないし、つきまとう。家を継がなければならないというのは、ずっと頭の裏側にあって生きていくうえでの一つの指針になっていると思います。
僕の場合はその意識は意外と自然なものですし、敦康親王にしてもそうだったのではないでしょうか。でも、彼は実際には継げなかった。確かに今の時代も、いつ何が起きるか分からないですし、こういうこともあるのだなと自然に受け入れました。
継げなかったことについて悔しさはあるでしょう。周囲に期待されているからこそ、自分の中で「こうなったらこうしたい」というものができあがっていく。「天皇って何なのだろう」「何が大変なのだろう」と意識しながら彼は生きてきたのに、肩透かしをくらう。上に立ちたいとか、トップでいなければとかの責任感もあるだろうから、自分に重ねてもしそうなったらと想像すると、やるせない気持ちはあったと想像します。
東宮になれなったシーンは、演出の方に「分かり切ったことで、諦めモードでお芝居して下さい」と言われました。僕としては、仕方ないと思いながらも、どこか残念な気持ち、悔しさ、寂しさが生じてそれらをとりつくろうという感じで演じました。
でも、彼は政に翻弄され流されながらも自分というものは失わなかった。なぜかというと、彰子や一条天皇の愛情、周囲の人の支えが何かしらの強さにつながったのでしょう。