人間にとって心地よい自然は管理なしには成立しない
いまさら人には聞きづらい「SDGs」や「生物多様性」を調べる時、読んでもらいたいのは子どもから大人まで読める新書だ。「岩波ジュニア新書」や「ちくまプリマー新書」などはぜひオススメしたい。
本書は「生物多様性」が叫ばれる時代に、目の前にいる「野生生物」との付き合い方を、朝日新聞大阪本社「科学みらい部」の取材チームが現場に赴き、見聞きし経験したことを、小学生でもわかるよう報告した一冊である。
最初に紹介されるのは2020年に東京・足立区で捕獲されたオスのニホンジカ。都会に突然現れたシカの捕獲は大変だったが、その後がさらに大騒動になった。
全国でシカの食害が問題になっていた時期でもあり「殺処分の可能性」が示唆されると、区役所の電話がパンクするほど抗議や意見が殺到したのだ。紆余曲折の末、千葉県の「市原ぞうの国」に引き取られ、いまでもそのシカは幸せに暮らしている。
しかし現在、日本のいたるところでシカは捕獲され、年間50万頭前後が殺処分されているという。都会にひょっこり出てきただけで動物園に引き取られ可愛がられるシカとの差をどう考えたらいいのか。
ほかにも、大量に漁網にかかったウミガメを排除するためナイフで弱らせた漁師や、毎日のように報道される市街地に出没するクマの処分、日本古来の和亀を守るために外来種のカメを安楽死させること、大阪湾に迷い込んで死んだマッコウクジラはどこへ行ったのか、など、野生生物と最前線で関わる人たちの悩みと苦しみがひしひしと伝わってくる。
現在、種の保存や外来種の排除に関して新しい試みが始まっていることが救いだ。自然は人間が管理してはじめて人間にとって心地よい自然になる。そのことを多くの人に知ってもらいたいと痛感した。