今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『最後の花火』(浜田 奈美 著/朝日新聞出版)。評者は書評家の東えりかさんです。

厳しい宿命を背負う子どもと家族のために

「ホスピス」には、終末期がん患者の緩和病棟というイメージがどうしても付きまとう。

だが「こどもホスピス」は少し違っている。難病の子どもたちの尊厳と自由を尊重し、命ある限り子どもらしく生きることをサポートする場所である。家族や友人と楽しい時間を過ごし、「その時」が来るまで旺盛に生きることに主眼を置いている。

本書に登場する横浜市金沢八景にある「うみとそらのおうち」(うみそら)は、大阪市鶴見区にある「TSURUMIこどもホスピス」に続く2ヵ所目の“医療機関ではない”こどもホスピス。医療ケアは行わない、子どもと家族のレクリエーションやリラクゼーションのための施設だ。

2003年3月、脳腫瘍で娘を亡くしたある父親が、NPO法人「スマイルオブキッズ」を立ちあげる。医療現場とともによりよい小児医療を目指すため、子どもに付き添う家族の休憩の場を提供することを目標とする「スマイル〜」は、神奈川県立こども医療センター近くに宿泊滞在施設「リラのいえ」を開設。14年には懸案事項であった「こどもホスピス」プロジェクトを始動させた。資金集めや自治体の協力などの課題を乗り越え、21年11月「うみそら」が落成。施設内は子どもたちと家族に安らぎを与えるために設計されている。

自宅と病院以外知らない子どもにとって、移動式のメリーゴーラウンドに乗ったり、打ち上げ花火を見たり、家族全員で大きなお風呂に入ったりするのは初めての体験だ。子どもを亡くした親たちには、同じ境遇の人と本音の話をする場が用意されている。

昨年私は、夫のがん終末期の苦しみを間近で見て子どもならどんなに辛いだろう、と胸が痛んだ。少しでも役立てればと香典返しを「うみそら」の寄付に代えさせてもらった。

ようやく認知されてきた「こどもホスピス」が全国に広がってほしいと心から思う。