今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『詐欺師と詐欺師』(川瀬七緒 著/中央公論新社)。評者は書評家の東えりかさんです。

《仕事》の助っ人の仇討ちを引き受けて

詐欺は仕掛けが大きいほど発覚しにくいものだ。時間をかけて周到に用意し、最後は跡形もなく消え去る。《わたし》こと伏見藍は世界を股に掛けた、そんな詐欺師である。33歳独身でアメリカと日本の二重国籍を持ち、ターゲットは政治家や企業経営者など、世間からの評価と信頼を隠れ蓑にしている偽善者たち。

一昨年日本に戻り、ひとりの政治家から金を巻き上げた。そのパートナーに選んだのが上条みちる、27歳。爪に火を点すような生活をしながら、20年前に両親を自殺に追い込んだ仇を探し出し、復讐しようと狙っている。《わたし》の仕事を少し手伝っただけで莫大な金が手に入ったことから、仇を探すのに手を貸してほしいと頼んできた。

みちるの父親は世界的企業グループ、戸賀崎リゾート開発の社長秘書だった。その社長と娘が交通事故死したあと、みちるの両親は社長の生き残った妻であり、グループの筆頭株主の喜和子に、横領で告発され自殺に追い込まれた。保護施設で育ったみちるは後にその一部始終を知り、喜和子に復讐することだけを目的に生きてきたという。

さらにみちるには「楽しんで人殺しをしたかどうか」を見極める特殊能力があった。殺人犯であれば輪郭が黒く縁取られて見えると《わたし》に告白したのだ。

みちるの手助けが、おもしろい。

《わたし》は、みちるが20年間に得た情報を元に、喜和子の居場所を探し始める。だが一生かけても使いきれない金を持つ《わたし》と、タクシー代さえケチるみちるとでは金銭感覚が違いすぎた。大金持ちの喜和子に近づくため、《わたし》は少しずつ贅沢に慣れるようみちるを教育し、ようやく喜和子へ辿り着く。

果たして《わたし》の仕掛けた詐欺は成功し、みちるの復讐は達成されるのか。騙しのテクニックは華麗なほどいい。