今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『芸能界』(染井為人 著/光文社)。評者は書評家の東えりかさんです。

前職の経験を踏まえて作家がこの世界を描く

2017年、映画の都ハリウッドで起こった映画プロデューサーのセクハラを告発する「#me too」運動を契機に、芸能界に蔓はびこ延る金と欲の世界が暴かれはじめた。それは日本にも波及し、最大手の芸能プロダクションが解散したり、映画監督が逮捕されたり、お笑い界の重鎮が裁判中だったりするのは記憶に新しい。

では日本の大衆文化の一翼を担ってきた芸能界では、どんなことが起こっているのか。本書は元芸能マネージャーで舞台プロデューサーでもあった著者がリアルな経験をもとに、《ギョーカイ》の裏側で起こった悲喜劇を7編の小説に仕立てたものだ。

物語の主人公に抜擢されたのは、落ちぶれた中年俳優、新人を育てるのが上手な敏腕マネージャー、インスタにハマったベテラン女優、イケメン若手俳優の登竜門を仕切る女性プロデューサー、コンプライアンスに悩むお笑いコンビ、スランプなうえにSNSで中傷される売り出し中の若手俳優、震災の町からデビューを夢見る女子中学生。

大衆が知る芸能人は、スクリーンやテレビ画面、パソコンやスマホに映る表の姿だ。彼らがどうやってこの場所に辿り着き、どれほどの努力を重ねてきたかを知ることはない。

もちろん後ろ暗いことがあってもなくても笑顔が清純でさわやかなら、ファンには何の問題もない。

推しを応援するためのグッズとして人気のある「アクスタ(アクリル・スタンド)」の姿が、私たちの知る芸能人のすべてである。しかしポーズを付けて笑顔を見せるアクスタの裏側に、生臭くて魑魅魍魎が跋扈する「芸能界」は確実に存在しているのだ。

とはいえ、この作家の小説がありきたりな結末を迎えるわけがない。ファンに夢を見せるため、芸能人は地獄を見ることもある。実在するタレントをキャスティングして、頭の中で映像化してみるのもなかなか楽しい。