今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『男性の繊細で気高くてやさしい「お気持ち」を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法』(サラ・クーパー 著/亜紀書房)。評者は書評家の東えりかさんです。

私たちは、こんなに気を回しながら生きている

このあきれるほど長いタイトルの本は、ビジネスの世界で面倒ごとをすり抜け生き残り、現場で思い通りに仕事を進め、どう昇進するかという女性の処世術を、見事なイラストとエッジの利いた文章で伝授してくれる。

著者はコメディアンでライターでもあるサラ・クーパー。ドナルド・トランプ大統領を風刺した顔真似(トランプの声で口パク)で世界中から大絶賛された。

本書には、男性と同じ言葉を発し、同じ行動をとって排斥される女性の姿が描かれる。「それ、あるあるー」と共感し笑いながら、胸に手を当て自戒することばかりだ。

だいたい男たちには無神経で、仕事では「男も女も関係なく平等だ」と思い込んでいる自称・フェミニストが多い。「女性雇用推進」を叫ぶ男性たちは、それ自体が偏見であることを自覚していない。

多くの「できる女」は誰にも嫌われず、出世の意図を気づかれず、いかにガラスの天井を打ち破るかに心を砕いてきた。これは意外と簡単にできるんだ、と本書で気づかされる。

たとえば就職面接に成功するコツ。面接官より有能そうに見せず、「ありのままの姿」を曝け出さないこと。男性中心の職場で対等な立場でいたいなら、彼らと同じ話し方をすると排斥されてしまう事実を知ること。職場で質問されたプライベートな問題は、バカを見ない程度に正直すぎず、オーセンティックな返答(嘘じゃないことが大事)を工夫すること。

だが次第に暗澹とした気持ちになる。女性はこんなに気を使わなきゃならないのか。本当に社会は変わるのだろうか。めまいがする。

人から好かれることと仕事で成功すること、どちらを選ぶか。シニカルな笑いの裏に現代社会の本質が隠されている。「私が目指す生き方」を女性はどう見つけたらいいんだろう。