古民家カフェで開かれる老人たちの読書会で
読書は独りで愉しむものだと思ってきた。だが本書で描かれる読書会は楽しそうだ。まずは外から覗いてみたくなる。
月に1回、小樽の古民家カフェ「喫茶シトロン」で開かれる〈坂の途中で本を読む会〉は今年で20年を迎える。メンバー最年長が92歳、最年少78歳。あとは80代の計6名。コロナのステイホームで休会状態だったのが、3年ぶりに再開される日から物語が始まる。
この間に、店のオーナー兼店長だった美智留が再婚して転居したため、小説の新人賞を受賞したことのある甥の安田松生が雇われ店長となった。28歳の安田にすれば自分の祖父母より年上に接するのは初めての経験だ。美智留が残した覚書ノートだけが頼りである。
だが始まってみれば元アナウンサーの大槻克巳会長のもと、これまで慣れ親しんだ通りに会は進んでいく。「読む本当番」で最年長のまちゃえさんが『だれも知らない小さな国』を課題本に指定した。
翌月から安田も参加することになった。ひとり2ページずつ朗読し、感想を述べ合う。もちろん脱線あり、おやつの時間ありだが、彼らは3時間の貸し切り時間をめいっぱい楽しんでいる。毎月少しずつ読み進められ、そこに小さな事件が巻き起こる。
佐藤さとるの『だれも知らない小さな国』は幼い頃に私も読んだ。北海道のこぼしさまという精霊が蕗の葉の下にいる挿絵が印象的で、小学生が異文化に出会うという、私にとっては初のファンタジー小説だった。
だが老人たちの感想で、私の印象はぐるっと変わった。死生観が覆されたと言ってもいい。人生のゴールが見えた人たちでなくては語れない真理に満ちているではないか。
読書は人生を豊かにすることは間違いない。それは年齢とは関係なく、かけがえのない時間だと改めて確信した。
本が好きでよかった。だれかと本書の感想を語り合いたい。