(撮影:森清)
医師として終末期医療や在宅医療に携わりながら、2003年に48歳で作家デビュー。日本医療小説大賞を受賞した『悪医』や、『老父よ、帰れ』など、医師としての経験を生かした作品を数多く発表してきた久坂部羊さん。医師として「老い」を見つめてきた経験を元に、今回の『人はどう悩むのか』では、老いという悩みを掘り下げてみたと語ります――。(構成:菊池亜希子 撮影:森清)

悩みは、人間が作り出すもの

思い通りにならないことを思い通りにしようとする気持ちが「悩み」です。年代によって悩みの種類は違いますが、本質は同じ。たとえ同じ状況でも、悲痛なまでに苦しむ人もいれば、「こんなもんよ」と受け流す人もいる。つまり悩みは、人間が作り出すものなのです。

長年、医師として高齢者医療に携わりながら「老い」を見つめてきました。老いが訪れたとき人は何を悩み、望むのか。上手に老いる人とそうでない人の違いは何なのか。

そうした経験をもとに『人はどう死ぬのか』『人はどう老いるのか』を書き、3作目の本作では、老いという悩みを掘り下げてみました。

死も老いも、すべての人に訪れます。巷には「人生百年」「いつまでも元気に若々しく」といった耳当たりのよい言葉が溢れていますが、どんなに頑張っても体力や容貌はいずれ衰える。

若さに執着すると後々苦しみを深めることに気づいて、老いと敵対しない生き方を早めに選択するのも、知性ではないでしょうか。