実用本位で自分史年表を書きはじめたという、中野翠さん。時代が放つにおい、刺激的な人との出会い、家族の思い出が浮かびあがって……(構成=内山靖子 撮影=藤澤靖子)
コラムニストとしての自覚が生まれた80年代
1960年代から2020年代まで、自分が手がけてきた仕事を書き留めたことで、それぞれの時代が放っていた空気もあらためて思い出すことができました。
なかでも私にとって大きなターニングポイントになったのは、80年代。日付が1980年になった瞬間の嬉しさは、いまでも忘れられません。
70年代は、学生運動を経験した自分と同世代の人間による連合赤軍事件などが起こり、重く、薄暗く、生々しい印象がありましたが、1980年と数字が変わったことで、なんだか暗いトンネルから抜けて、突然パーッと視界が開けたような解放感を感じたんですよ。
苦手に思っていた「神田川」のような和製フォークの時代から、サザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」のように、明朗で軽やかな世界に一気にシフトしたと言いますか。
80年代は、出版界や雑誌文化も活気づいていたので、毎日がお祭りのようで、とても楽しかったし面白かった。