梶山さんが窓を作り、光が差し込むようになった台所。棚にはドライハーブの入った缶が並ぶ(2013年撮影/写真提供:梶山正)
山里の古民家で美しい花々やハーブを育て、手作り暮らしを楽しんでいたベニシア・スタンリー・スミスさんが、2023年6月に死去しました。梶山正さんは妻の介護をとおし、学んだことがあったと話します(取材・文:野田敦子 写真提供:梶山正)

前編よりつづく

ベニシアさんが教えてくれたこと

09年にベニシアさんが広く知られるきっかけとなった、NHK―BSのドキュメンタリー番組『猫のしっぽ カエルの手』が始まる。

梶山さんはベニシアさんに許しを乞い、大原に戻っていた。「僕が家出している間、親友がベニシアに、『そんな人とは別れなさい』と忠告したけれど、『私は待つ』と言って聞かなかったようです。ベニシアが僕たちに愛を与え続けたのは、自分も愛されたかったから。彼女を介護するまで、僕はそのことに気づけなかったんです」。

ベニシアさんは、15年ごろから目の見えにくさを訴えはじめる。

白内障の手術を受けるも、3年後に脳神経内科でアルツハイマー病の一種であるPCA(後部皮質萎縮症)と診断された。視覚を司る後頭葉の萎縮に始まり、次第に脳全体の認知機能低下へと進んでいく、根本的な治療法のない進行性の病だ。

ハーブを使った料理や、トラディショナル・フルーツケーキなどイギリス式のクリスマス料理作りを楽しんだ。