(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
「今日、歴史と文化がますます情報戦の武器となり、政治的な動員のための旗幟となっている」――。そう語るのは、評論家・近現代史研究者として各国の博物館や史跡を調査する辻田真佐憲さんです。今回は、辻田さんが約2年半におよび国内外の「国威発揚」をめぐった成果をまとめた『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』から、東京都・産業遺産情報センターと長崎県・軍艦島についてお届けします。

「歴史戦」の最前線へ

東京都/産業遺産情報センター、長崎県/軍艦島(2022年3月訪問)

ご来館のきっかけ。ホームページ、新聞、テレビ、家族・友人・知人、SNS(Facebook、Twitter、ブログ等)、虎ノ門ニュース、YouTube、月刊Hanada、その他――。

手渡されたアンケートを見て、思わず二度見した。なぜゴリゴリの保守系メディアの名前が? 右寄りの政治集会ではない。ここは産業遺産情報センター。東京新宿区の総務省第二庁舎内にある、れっきとした国の施設なのである。

同センターは、世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の広報施設として、2020(令和2)年6月に一般公開された。コロナ禍を受け、いまも予約制なので、あまり世のなかには知られていない。

それでもこの施設が存続しているわけは、その特殊な来歴にある。

「産業革命遺産」を構成する23の資産は、岩手県から鹿児島県まで全国8県に散らばっている。内容もクレーンや港、炭鉱跡など、個々では正直意味合いがわかりにくく、パッとしないものも多い。

それでも世界遺産に登録されたのは、複数の資産をひとつの物語でまとめて登録する「シリアルノミネーション」という仕組みがあったからだ。

「産業革命遺産」の場合、その物語は「非西洋諸国で初めて産業革命の波を受容し、50年余りで植民地にならずして、自らの手で産業化を成就した」(内閣官房のパンフレット)というものだった。したがって、全体像を伝える施設が必要不可欠だったのである。