高齢者が高齢者の親を介護する、いわゆる「老老介護」が今後ますます増えていくことが予想されます。子育てと違い、いつ終わるかわからず、看る側の気力・体力も衰えていくなかでの介護は、共倒れの可能性も。自らも前期高齢者である作家・森久美子さんが、現在直面している、96歳の父親の変化と介護の戸惑いについて、赤裸々につづるエッセイです。
父、再び奇跡の復活
2024年9月の半ば頃、父はコロナに感染して熱が出た。病院から老人ホームに連れて帰ったが、5日間家族の面会は禁止だという。熱で朦朧とした状態でトイレに行くと転倒の危険があるため、父は紙パンツをはくことになった。意外にも、父は「いやだ」とは言わなかったとホームの担当者から電話で報告を受けた。
翌日から私は父の携帯に電話して様子を聞くことにした。
「パパ、おはよう。熱はどう?」
「おはよう。今朝は熱が下がって、平熱だった。お医者さんが出してくれた薬、すごく効いて、早く治ってよかった」
父の予想外に元気な声に驚いた。96歳という年齢から考えて、コロナ罹患をきっかけに寝たきりになるのではと、私はある程度覚悟していた。遅かれ早かれ、そうなる日はくるはずだ。
ところが、父はいつもと変わらぬ口調で言う。
「おなかすいたな」
「え? 今、9時だよ。朝ご飯は食べたんでしょう?」
「あぁ。5日間は食堂に行けないから、俺の分はお盆に載せて持ってきてくれるけど、一人だと食欲がわかなくて少し残した」
黙って昼を待てばいいのにと思ったが、食欲が出てきたのは回復の兆しだから嬉しい。差し入れてほしいものを聞いてみた。
「何か食べたいものはある?」
「あんぱん」
「じゃあ受付の人に渡しておくね」
仕事が忙しい時期に重なり、毎日行くのは無理だったが、5日間で届けたものは、チョコレート、ぬか漬け、納豆、かりんとう。最後に届けに行った時に受付の人から報告があった。
「明日の朝から食堂でお食事してもらえますよ。デイサービスは明後日から再開です」
コロナから奇跡の復活だ。軽くてすんだことがありがたかった。