「水墨画のいいところは、道具が少なく、手軽に始められる点。予定のない午後とか、ちょっと時間ができると、音楽を聴きながら筆を動かしています」(撮影:洞澤佐智子)
50歳から書道教室に通い始め、身近に墨や筆があったことから、ふと水墨画にチャレンジしてみたという伊藤かずえさん。墨の香りに癒やされながら、自由に楽しむ伊藤さんのスタイルを聞きました(構成:村瀬素子 撮影:洞澤佐智子)

初めて描いた竹で自信がついて

水墨画を始めたのは、3年ほど前。スマホでネットサーフィンをしていたら、たまたま水墨画の画像を見つけたのです。私は長年書道を習っていて、墨のにじみやかすれ、濃淡の使い方はなんとなくわかっていたので、水墨画も描けそう、と軽い気持ちでトライしてみました。

最初に描いたのは竹。調べたお手本画像を見ながら色紙に描いてみたら、なかなか素敵! 竹は初心者向きなんです。節をきちんと描けばそれらしく見えるし、墨の濃淡で葉っぱの奥行きも出せる。それで自信がついて、動物や花など簡単そうなお手本を探しては、見よう見まねで描くようになりました。

水墨画のいいところは、道具が少なく、手軽に始められる点。私の場合、リビングのテーブルの片隅に、墨汁、小筆、筆ペン一式を入れた小さなカゴを置いて、いつでも取り掛かれる状態に。予定のない午後とか、ちょっと時間ができると、音楽を聴きながら筆を動かしています。

私の描き方は、誰かに教わったわけではなく自己流ですが、たとえばウサギなら、まず輪郭を薄い墨で描いてから、濃い墨で整えたり、目などのパーツを強調したりします。太さや濃さを出したいときは仕上げに筆ペンを使用することも。

色を使わず墨一色で、ウサギのふっくらした毛並みや、月など風景の遠近感を表現できるのが水墨画の面白さですね。だいたい20分あれば1枚描けます。というのも、水墨画は描き足していくと、どんどん黒くなってしまうので、やめどきも大切なのです。

花を描くときは、アクリル絵の具で色を足すこともあります。花と葉の形が似ていると、墨だけではなかなか違いが出せなくて。ネットで調べたら、色を使っているお手本を見つけたので、藤には紫、彼岸花には赤で色をつけたりして、自由に描いています。

南国の風景やアニメのキャラクターなど、現代的な題材にも挑戦していますが、愛車のシーマを描くのがいちばん難しい。1990年発売の初代シーマを修復して34年乗り続けているのですが、そのことを以前SNSに載せたら、話題になったこともありました。動きのない無機質な物は特徴がつかみにくくて、未だに上手く描けません。