(『しあわせは食べて寝て待て』/(c)NHK) 
桜井ユキ(38)が主演を務めるNHKの連続ドラマ『しあわせは食べて寝て待て』。健康や仕事、将来設計などを失った、38歳独身女性の麦巻さとこは団地に引っ越すことに。薬膳との出会いや団地の人たちとの交流を通じて身近な幸せに気づいていく物語だ。放送コラムニストの高堀冬彦氏が解説する。

癒やされるだけのドラマではない

NHKの連続ドラマ『しあわせは食べて寝て待て』(火曜午後10時)の主な舞台は築45年の団地。主人公・麦巻さとこ (桜井ユキ)はその一室を借り、1人で暮らしている。

居住者に高齢者が多いこともあって、団地には昭和の人間味や風情が色濃く残っている。流れている時間も心なしかゆっくりしている。

ただし、観る側をノスタルジーに浸らせるだけの癒しドラマではない。登場人物たちが観る側に生きるヒントを与えてくれる物語である。

麦巻は38歳の独身女性。建設会社で働き、賃貸マンションで暮らしていたが、どちらも第1回で失った。膠原病に罹ったことが発端だ。 

この病気は人によって症状が違うが、麦巻の場合は寒いとたちまち風邪をひいてしまう。疲労やストレスなどにも弱い。

療養のため、麦巻は会社をしばらく休んだ。復職後は後輩社員・吉澤里奈(矢野優花)がサポート役に付いた。多くの会社が同じような復職制度を設けているはずだ。

ところが、吉澤による陰湿な嫌がらせが始まる。吉澤はまず社内で陰口を叩いた。

「麦巻さんは時短出勤。私は休日出勤。まともに働けないのなら、来るなっていうの」

さらに吉澤は麦巻のパソコンに大量の迷惑メールを送る。暗に転職を迫ったのである。

残念なことだが、病を得た者への冷遇も多くの組織であることだろう。1990年代後半から広まった成果主義などにより、会社の一家意識は薄らいだ。一方で自己責任意識は社会全体で高まるばかり。生きづらさを感じる人は少なくないはずだ。

麦巻は吉澤と戦わなかった。「元気だったころは理不尽な扱いに立ち向かえる人間だった」。体が弱ると、心も弱る。麦巻は会社を辞めた。